球磨川(3)樫の木の瀬
9/18 九州といえども、さすがに朝晩は冷えてきた。
ここは、昨日の二股の瀬の少し上流にあたる。
田村の真ちゃんが紹介をしてくれた場所である。
左岸川の道路から見ると、この辺りは、川幅は狭く、青い不気味な大トロの連続である。
大トロと大トロの間に、短い瀬らしきものがある。
球磨川の代表的な川の淵かも知れない。
その淵を見ると、何とも不気味な気配を感じる。
津本 陽 の小説に「深重の海」という和歌山の太地が舞台の作品があったが、まさに、ここは深重の淵ともいうべき、何とも形容しがたい重苦しい淵である。川底には、魔物でも住んでいそうな予感がする。そんな気がする「樫の木の瀬」である。
「カシノキの瀬」
すでに、地元の人が二人入っていた。この辺りは、鮎の数釣りの場所ではない。しかし、不気味な川相で大鮎の匂いがする。
私と、仲間2人が、ここに入るには、少し狭すぎる気がした。それでも、断りに言って、入ることにした。今日が最後の釣りだから、先客に、“すみません、2時間か3時間釣らせて下さい!“
すると、“この下で釣りなさい!“という。
私は、一目見て、この下の瀬は、上下300mの間で、最高のポイントに見えた。大鮎のいる予感がする。
地元の人は、私の身なりを見て、遠方からこの球磨川に釣りに来たというのがすぐ判ったようで、自分の場所を空けて、ここで釣りなさいと言ってくれた。
なんと寛大な人だろうか。
球磨川では、どこに行っても、釣り人におおらかで、情の深さを感じた。
彼は、私にどんな仕掛けで釣るのか、“見せてくれ“と言う。
ここにくる多くの人は、細い仕掛けで、大鮎を掛けては、糸を切られているのを何度も見てきたらしい、そのため、私にアドバイスをしたかったらしいのである。
私は、川を見て、「糸 1.5号 錘 8号」にし、鉤はヤナギ仕掛けを示すと、地元の人は、何も言わなかった。
このヤナギ仕掛け、先日関東方面から来た人もこれを使っていたという。
珍しそうな目で見ているから、昨夜作った、私の仕掛けを少し差し上げた。
釣り開始 10:30am
大鮎のいそうな所に、初めてオトリを入れた。
昨日の二股の瀬は、本州のどこにでもあるような瀬であったが、ここカシノキの瀬には、不気味な得体の知れない何かが潜んでいるような薄気味の悪さがそこにあった。
今回、五ヶ瀬川で、27.5cmの鮎を私は釣っているから、それ以上の鮎を釣りたかった。
そのため、最終日の今日は大鮎のいそうなだけに、私の五感を働かせ、釣り場を絞って場所を選んだ。そこが、さきほどの地元の人が譲ってくれた場所である。
糸を切られることのないように、糸は、1.5号である。最後の日の大鮎一発狙いである。
11:00am
昨日同様に水温が上昇してきた。
大トロと大トロの間の短い瀬をオトリを沈めた。私のすぐ上で、地元の人が竿を出している。私の釣り方を、お手並み拝見と見ているのかも知れない。川幅は狭いが、底流れが結構強い。
オトリを弱らないうちに、1匹野鮎を釣りたい。
12:00pm ころ 待望の鮎が掛かる。慎重に取り込む。掛かった瞬間に大鮎の気配はなかったが、それでも、24cm。ここでは、小さい方であろう。
今日の狙いからすれば、小さい。
それでも、待望の1匹がかかり、野鮎のオトリが取れたことに満足する。すぐ上の地元の人も、嬉しそうに白い歯を見せてくれた。
(続)
(その2)
今釣れた、鮎をおとりにして、大鮎がいそうなところに、8号の錘で沈めた。
野鮎を沈めて、しばらく立って、「ガツン」という鮎の大きな当たりがあり、竿を持つ手に大きな響きがあった。
しかし、その後、軽くなり、静かになった。全く動きがない。“おかしい”
“何か変だ”
今のガツンで逆さバリでも外れているのかもしれない!そんな予感がしたので、おとり鮎を手元まで寄せて確認した。
「鉤が見事に折れていた!!」
本州では、普通の鉤でも折れるということは滅多になかった。しかも今回は、大鮎用の太軸の鉤である。これを折るというのは、並大抵の力ではない。
悔しいが、「ヤナギの10号の元バリが見事に折れていた」
やはり、大きいのがいるのだ。
興奮の余韻を残しながら、再び、果敢に、挑戦してみた。しかし、その後は、全く当たりが無くなった。
13:00
残り時間も後1時間である。
当たりが無くなった。ここで、球磨川用に作った新しい鉤を頻繁に変えることにした。
球磨川下りの「フナ下り」が通る川の流芯に、野鮎の24cmをオトリとして、沈めた。オトリもかなり弱っていたので、この流芯では、20分は持たない気がした。
悲観的なことを考えていると、待ちに待った「当たりが来た!!」
「ググ-」 何か大きなゴミでも引っかかったような、重い引きが最初にあった。
そして間髪を入れず「竿を一気に絞り込んだ!」
その瞬間、道糸が空気を劈き「ビュウ-ン」という糸鳴りがした。竿が、満月のように全体を大きくしなっている。
今までに経験したことのない大きな引きである。
カカリ鮎を溜める余裕など全く無い。それほど、鮎が大きく力図よく下に引っ張るのである。腰まで川の中に立ち込んでいる私を、鮎が強引に下へ引きずっているかのようであった。
千載一遇のチャンスであるから、最後は、どこまでも流れに乗って、下の淵まで泳いでいく覚悟をした。
途中滑って転ぶと、体全体が、すっぽり埋まってしまった。しかし、竿だけは、伸ばされないように、辛うじて立てていた。
次の石を跨いで下に立とうとしたら、石の下は、2m位の深さで、再び、頭まで潜りながら、ようやく下の淵まで落とし込んだ。私は、竿を撓らせたまま、少し落ち着くことにした。
カカリ鮎は、なんと荒瀬の流芯の反対側の深い淵にいるようである。竿の操作でこちら側に寄ってくる気配は全くない。引っ張って、少しこっちに来るが、その後は、一気に自分の住処に一直線である。
根ガカリでもしたかのように、微動だにしない。
道糸は、1.5号。切られる心配はない。かえって、無理に引っ張って、ばれたら大変だ。あるいは、更に引っ張られ。下の淵まで引き込まれたら、多分、持たない気がした。(仮に、更に下の淵まで下るなら、竿を立てながら、意地でも、泳いで下る覚悟だった)
幸い、鮎は、青くて深い深重の淵にじっとしている。時々、ゴツゴツという感触が伝わってくるから、まだ、鮎が掛かっているのは、間違いない。あとは、じっくり時間をかけて、球磨川の鮎を待つことにした。
とにかく、荒瀬のこっちに、野鮎を釣れてくるのが、一苦労である。
ようやく、流芯を越えて、鮎はこっちに来てくれた。しかし、私の竿はまだ大きく曲がったままである。鮎とのやりとりが、非常に長く感じられたが、観念したのか、ようやく私のタモの中に収まった。
30cm に少し足りない 29cmであった。
ここに来る前に、五ヶ瀬川で釣ってきたが、27.5cmが最長であった。五ヶ瀬川の鮎は、「鶴の瀬」の鮎といえども、実にスマートで、幅はない。
球磨川の鮎の幅が、実に大きい。大きな引きは、鮎のこの幅からくるのであろう。
「すさまじい鮎」
私は球磨川の鮎を取り込んだとき、大きいというより、すさまじい鮎、これが鮎かと思った。面魂が、すごい。
背中の背鰭が、他の釣り人がかけたのだが、瀬が借りから逃げ延びた時に傷を付けたに違いない。背鰭の部分が、赤く、痛々しかった。
その傷の跡から、かなり前の傷である。私が先ほど、鉤を折られ逃げられた鮎とは違うようである。
球磨川には、このような面魂の鮎が、たくさんいるに違いない。
「球磨川下りの船」
大鮎を取り込んで、喜びに浸っていると、球磨川下りの船が、すぐ目の前を、流れすぎてゆく。
私が大鮎を格闘しているとき、この船が来ていたら、私はこっち、鮎は対岸だから、完全に糸が切られていたに違いない。
幸い、樫の木の瀬の宴はすでに終わっていた。
船下りの人は私がすぐ目の前に立っていたので笑顔を見せながら、手を振ってくれた。すぐに、私は、指でVマ-クを頭の上に突きだした。
先ほどまで、その船の下で、球磨川の主のような大鮎とのやりとりがあったことなど、観光客はもちろん知る由もない。船は、あっという間に、真ん中の激流を下っていった。
船が去った後、再びその淵は、深重の海のように青黒く、不気味な様相を呈して静寂に覆われていった。 球磨川の鮎「樫の木の瀬」 完
大きな感動を与えてくれた球磨川に感謝。
場所を空けてくれた、地元の甲斐さん ありがとう。
田村の真ちゃん ありがとう!
最近のコメント