球磨川 (2)
☆温かな球磨焼酎
二股の瀬で、大きな鮎を釣り終え、胸までつかりながら、なんとか瀬を横切った。 ところが、左岸まで渡りきったところで、玉網を、中州に忘れてきたらしい。あるいは、帰る途中に、流されたのかも知れない。もしかすると、中州に忘れてきたのかもしれないので、もう一度この荒瀬を横切ることにした。 しかし、水量は少ないものの、結構押しがきつい流れである。
衣類はずぶぬれであるから、再び、水の中に入るには、更に冷えるだろうと思って、裸になり、泳いで、対岸に渡ることにした。
しかし、どこを見渡しても網はない。
再び、泳いで、引き返した。
ここで、濡れた衣類を着たのだが、とにかく寒い。
9月の下旬。さすがに、九州といえども、夕方は、冷えて寒い。
衣服はビショ濡れである。しかし、着替えは、田村の真ちゃんの車に預けたままである。
とにかく、寒い。ブルブル震えが来た。
そうだ、この上に、小さな店があった!そこで、熱燗でも、キュ-とやれば暖まるだろう。そう思って、店に入った。
しかし、日本酒はないという。あるのは、冷たい缶ビールと、アイスクリーム位。あとは、雑貨。
どうやら、ここ球磨地方では、日本酒を飲む習慣がないらしい。 酒といえば、焼酎のことらしい。
店の主人は、酒は無いと言いながら、私のなりを見て、外に出てきて、下に見える二股の瀬を指さしながら、あそこ、ここと釣り場の説明を始めた。
私は、寒さで体が震えているのだから、とても聴いていられる心境ではない。すぐに店の中に飛び込んだ。
それでも、あまりの寒さに、再び、主人に“酒はないんですか?” と聞いてみたが、やはり、酒はないという!
“焼酎ならあるよ!” という。
それは、売るための焼酎ではなく、主人がこれから自分で飲もうとしている焼酎をさしてのことである。
奥さんに命じて、「焼酎の熱燗」を作ってくれるという。
お盆に出てきた、熱い一杯の焼酎、キュ-と飲み干す。体中にジ-ンと浸み込み、一気に体が暖まった。日本酒とは違ったコクのある酒である。
お礼に、お金を渡したが、ガンとして受け取らない。そこで冷たい缶ビールを買うことにした。それじゃー、もう一杯飲んでいきなさいと、熱い球磨の焼酎をまた作ってくれた。
結局、2杯の暖かい焼酎をご馳走になった。
この2杯の暖かい焼酎は、球磨村の人の温かい人情が伝わり、腹の底にジーンときた。
最後に、お礼を言ったら、店の主人は、笑顔で、 “ヨカです!”
と言った。
温かな球磨村の人の人情を、一言で凝縮したような言葉、“ヨカです!”
私は、“ヨカです! と言われて外に出たとき、胸が熱くなった。
球磨川の忘れ得ぬ思いでが、できた。
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